逮捕と釈放の応酬「米中外交戦争(ハイテク戦争)」 ファーウェイ、tiktokなど中国企業への警戒強まる

2018年12月1日にカナダ当局に逮捕され、アメリカへの身柄引き渡しが決まっていた中国通信機器・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が2021年9月24日、米司法省との司法取引に応じた。孟氏は無罪を主張しつつ、米国の対イラン制裁を逃れるため「金融機関に虚偽の説明をした」という事実関係を争わないことに同意し、司法取引が成立した。これを受け、孟氏の即日釈放が決定した。孟氏は、「この3年間で人生が一変した。ひどい時期だった」と述べたという。
現在、世界最大の通信機器メーカーに成長したファーウェイは、人民解放軍所属の元軍人・任正非氏によって創業され、孟氏は、任正非氏の娘であり、副会長だ。
ファーウェイについては、中国政府による情報収集・スパイ活動に利用されているのではないかと欧米で警戒されている。ファーウェイ社は、そのようなことはあり得ないと否定し続けているものの日本政府も、「サイバーセキュリティー」上の懸念から、日本政府や省庁などが使用する情報通信機器から華為技術(ファーウェイ、Huawei)と中興通訊(ZTE)の製品を排除する方針を2018年12月に決定している。
ファーウェイだけでなく、動画アプリTikTokを運営するバイトダンス(字節跳動)など他の中国企業についても、警戒監視の対象となっている。
孟氏やファーウェイに対する疑惑は、「パスポート(旅券)7通所持」について報じられた際に、安全保障上の懸念が大きくなった。孟氏は複数のパスポートの押収に応じることで釈放を求めてきたが、検察側は別のパスポートで国外に逃亡することを恐れてきた。今回の事件は、ファーウェイという中国企業単体の違法行為としてよりも、中国共産党の『秘密の特務工作』疑惑であると認識されており、米中だけでなく、欧米諸国や日本を含めた外交問題に発展してきた。
カナダ・ヴァンクーヴァーの裁判所は、9月24日孟氏の釈放を命じた。孟氏は、中国国際航空の旅客機で中国への帰国の途につき、現地時間25日夜に深圳宝安国際空港に到着、帰国した。
帰国した孟氏は、「中国の旗がある所には希望の光が輝いています」、「信念に色があるなら、それは中国の紅の色に違いありません」と述べたという。
中国メディアは、孟氏の帰国を「外交的な勝利」として大きく報道。空港で待ち構えた関係者が国旗を振って“英雄”のように歓迎した。
孟氏の釈放と時を同じくして、中国で逮捕され、1000日以上にわたって拘束されてきたカナダ人2人も釈放・解放され、駐中カナダ大使のドミニク・バートン氏が同行してカナダへの帰国の途に同行した。
2人のカナダ人、ビジネスマンのマイケル・スパヴァー氏と元外交官マイケル・コヴリグ氏は、孟氏がカナダで逮捕された数日後に、中国において「国家の安全を脅かした」というスパイ容疑で逮捕され収監されていた。
ブリンケン米国務長官は、「中国当局のカナダ人釈放決定を歓迎する」とのコメントを出した。
スパヴァー氏は、懲役11年の実刑判決を受けていた。
中国政府は、カナダ人2人の逮捕について、「人質外交」や「報復措置」であるという西側諸国からの批判を否定してきた。
マイケル・コヴリグ氏は、シンクタンク「インターナショナル・クライシス・グループ」の従業員。マイケル・スパヴァー氏は、北朝鮮とのビジネスや文化交流を担当する団体「Paektu Cultural Exchange」の創業メンバー。
中国から解放されたカナダ人2人は、現地時間25日早朝、カナダ・カルガリーに到着し、ジャスティン・トルドー首相が出迎えた。
米国のジェン・サキ大統領報道官は9月27日の記者会見で、華為技術(ファーウェイ)孟氏の釈放と帰国について、「司法省が独自に決定した」と述べ、政治介入を否定した。中国に譲歩したのではないかとの批判に対しては、「我々の対中政策は変わっていない」と反論した。
米メディアでは、この司法取引について、「中国の人質外交への屈辱的降伏」と批判的な意見が上がっている。
(参考)
・BBC『ファーウェイ副会長が米と司法取引、中国へ帰還 中国拘束のカナダ人2人も解放』2021年9月25日配信
・朝日新聞『カナダで拘束のファーウェイ副会長、米と司法取引 中国へ向けて出国』2021年9月25日配信
・日本経済新聞『ファーウェイ副会長、中国へ出国 中国はカナダ人解放』2021年9月24日配信
・時事ドットコム『解放のファーウェイ副会長帰国 中国「政治的迫害」と米批判』2021年09月26日配信
・千葉日報『中国、副会長帰国は「外交勝利」 対米改善を模索』2021年9月26日配信
・AFP通信『中国で拘束されたカナダ人2人、釈放され帰国へ トルドー首相』2021年9月25日配信
・zakzak by夕刊フジ『中国共産党による「秘密特務」関与か!? 逮捕されたファーウェイ孟CFOが持つ“7つのパスポート”の謎 』2018年12月11日配信
・東洋経済『ファーウェイ孟氏帰国出発後、中国カナダ人釈放 突然、解決した米国・中国・カナダの外交的危機』2021年9月28日
・Bloomberg『中国、カナダ人2人を釈放-ファーウェイCFOが本国に向け出発後』2021年9月25日配信
・REUTERS『カナダ人2人が中国を出国、ファーウェイCFOの拘束直後に逮捕』2021年9月25日配信
・読売新聞『「中国人質外交への屈辱的な降伏」ファーウェイCFO帰国に米で批判…報道官は政治介入を否定』2021年9月28日配信
・AFP通信『日本政府、ファーウェイ・ZTE製品を省庁から排除へ 報道』2018年12月7日配信
・newsweek『管理職の中国出張は危険…外資企業を待つ共産党「人質外交」の罠』2021年10月7日配信