中国の『グレーゾーン戦争』に苦しむ日本の防衛 自衛隊は出動できない「中国海上民兵(漁船)」による尖閣諸島の奪取への試み

中国海上民兵について尖閣グレーゾーン戦争について解説

現在、日本政府は、中国政府による漁民に扮した「海上民兵」と「海警」を駆使した「グレーゾーン戦争」に苦しんでいる。尖閣諸島の実行支配権の奪取を狙う「中国海上民兵」は、「武力攻撃」に達しないレベルの「武力行使」ともいえる範囲内で、尖閣諸島を奪い取ろうと試みている。中国漁船民兵団の活動が、「武力行使」の範囲内の活動であるため、「自衛隊」(自衛権)は出動できず、したがって「海上保安庁」による「取り締まり」(警察権)で対処せざるを得ない状況が続いている。

中国の民兵部隊は、表面的には「南シナ海水産会社」や「三沙市水産開発公社」のような民間会社に組織されているが、漁師に扮する「民兵」たちは国家によって訓練され、大挙して押し寄せてくることもあれば、散発的に尖閣近海を航行することもある。

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【事例1】2012年、尖閣諸島・魚釣島の北約250キロの公海上で4月20日朝、中国漁船とみられる約50隻の船団と尖閣周辺を航行している中国公船の海洋監視船「海監」4隻と漁業監視船「漁政」6隻も確認される(脚注3)。

【事例2】2010年9月、中国漁船船長の詹其雄(Zhan Qixiong)氏が、尖閣諸島近海において、2隻の海保巡視船を襲撃したとして逮捕された。この日本当局側の逮捕に対して、中国当局は報復と疑えるような反応を示し「中国国内の日本人」の身柄を拘束していく(脚注4)。中国政府の報復を恐れた日本政府は、「釈放命令」を内閣官房長官から法務省、そして検察庁へと伝えて、中国人船長を釈放している(脚注5)。

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これらの「中国海上民兵」の行動は、「軍事と非軍事」の境界における巧みな活動であるため、日本は「警察権」によって「尖閣諸島」の領有権を守ろうとしているのである。そして、日本側が「海上民兵」に対して「警察権」を行使すれば、中国側も「在外日本人」に対して「警察権」で報復することが明らかになっている。

次に、日本政府を悩ませている中国の『グレーゾーン戦争』について、その担い手である「民兵」を中心に中国と日本の法律面から眺めてみたい。

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(武力行使と武力攻撃の違い)

①「武力行使」(国連憲章第2条第4項)とは、「一般に、国家がその国際関係 において行う実力の行使。
②「武力攻撃」(国連憲章第51条)とは、「一般に、一国に対する組織的計画的な武力行使」と解する(脚注1)。

(自衛隊法76条)

自衛隊法 76 「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる(脚注2)。

(中華人民共和国憲法第2章第55条)

祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国の全ての公民の神聖な責務である。 法律に従って兵役に服し、民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の光栄ある義務である。

(中華人民共和国国防法 第22条)

中華人民共和国の軍隊(武装力量)は、中国人民解放軍現役部隊および予備役部隊、中国人民武装警察部隊、民兵から構成される。

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中国の海上民兵は、意図的に「戦争」と「平和」の間における「自衛権を発動できない」(自衛隊が出動できない)範囲(グレーゾーン)で行動していることがわかる。「海上民兵(漁船)」は、「グレーゾーン」活動を継続することによって、尖閣諸島の領有権を獲得しようと試みているのである。

『国際法では、「領土の取得(帰属)」に必要なのは、「継続的かつ平和的な根拠に基づく、管轄権および国家機能の行使による、領土に対する権力および権威の意図的な表示」とされている。中国政府は、『「発見」と「実効的占拠」を通じて、中国が島嶼の主権を獲得したと主張することが多い』(引用1)。

中国政府は、尖閣諸島における日本政府が主張している『実効支配』を、「名目上の管理」などの言葉を対外的に用いて、日本政府による「尖閣支配」を疑問視しようと何度も繰り返し挑戦している。中国政府は、尖閣諸島近くの海域で中国公船(海警)が毎日行っている「主権帰属確認」パトロールによって、尖閣諸島に対する自国の警察権の執行を強調しているのだ。

現在、国際社会において「国連憲章」における最大の焦点は、「国家が武力を行使したのかどうか」ということが注視されるようになっている。「中国海上民兵」の「グレーゾーン」活動は、国連憲章の第2条第4項の「武力行使」にあたるのか、国連憲章第51条の「武力攻撃」にあたるものなのか「白黒」つける判断基準は、おそらく存在しない。そして大事なことは、「武力攻撃」のレベルに達しない他国からの違法な「武力行使」をある国が受けた場合、その国の対応はきわめて限定されたものにならざるを得なくなる。

2014年の『国防白書』で発表された記事の中で、葛永宏(南京军区司令部动员部部长)氏(脚注6)は、「強力な敵を倒すためには、敵の主力に対抗することに専念するのは愚の骨頂である」と記している。中国「海警」と「海上民兵」による「グレーソーン作戦」の目的は、国際法上、合法とされる「自衛権」発動の口実を相手国に与えないまま、中国が領有権を広げていくことであろう。

(脚注)
(注1)松山健二著『国際法及び憲法第 9 条における武力行使』
(注2)防衛省HP『自衛隊法第76条第1項目』2021年4月15日閲覧
(注3)朝日新聞『尖閣250キロ沖の公海上、中国漁船団が操業』 2012年9月20日
(注4)『中国河北省で軍事施設をビデオ撮影したとして日本人4人が国家安全機関の取り調べを受ける。取り調べを受けているのは準大手ゼネコン、フジタ(本社・東京都渋谷区)の関係者であることを日本外務省などが公表した。拘束されているのは、国際事業部建設部次長、佐々木善郎さん、営業本部営業統括第5部次長、橋本博貴さんと上海にある現地法人「藤田建設工程」に出向中の高橋定さん、井口準一さんの4人と見られるという。』朝日新聞『中国拘束の日本人4人はフジタ社員、20日から取り調べ』 2010年9月24日付から引用
(注5)「政府は当時「(釈放は)検察独自の判断」「政治介入は一切なかった」と説明」時事通信「中国人船長釈放は菅元首相指示 前原元外相が証言」2020年9月8日付から引用
(注6) 2014年の『国防白書』は、葛永宏(南京军区司令部动员部部长)氏が書いたとされる。

(参考)
・ アンドリュー・S・エリクソン+ライアン・D・マーティソン著『中国の海洋強国戦略 グレーゾーン作戦と展開』原書房2020年。
・松山健二著『国際法及び憲法第 9 条における武力行使』2021年4月15日閲覧。
・防衛省HP『自衛隊法第76条第1項目』2021年4月15日閲覧。
・朝日新聞『尖閣250キロ沖の公海上、中国漁船団が操業』 2012年9月20日付。
・朝日新聞『中国拘束の日本人4人はフジタ社員、20日から取り調べ』 2010年9月24日付。
・時事通信「中国人船長釈放は菅元首相指示 前原元外相が証言」2020年9月8日付。

(引用1) アンドリュー・S・エリクソン+ライアン・D・マーティソン著『中国の海洋峡谷戦略 グレー損作戦と展開』原書房 81頁から引用。

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