カルロス・ゴーン氏の海外逃亡支援 米軍グリーンベレー元隊員を逮捕 刑務所に入ったり、出たりの日々を送る人々

日産の元会長カルロス・ゴーンの海外への逃亡を手助けしたとされる事件で、東京地検特捜部は2021年3月2日、犯人隠避容疑の疑いで 、特殊部隊元隊員のマイケル・テイラー氏 を逮捕した。
米軍の特殊部隊「グリーンベレー」元隊員のマイケル・テイラー氏は、保釈中だったカルロス・ゴーン元会長の海外逃亡を計画し、ホテルから関西空港まで護衛し、一緒にプライベートジェットで出国し、レバノンへ入国したとされている。
2019年12月29日、楽器箱の箱にゴーン氏を隠した脱出劇は、前代未聞の事件と言われ、その手法は「まるでスパイ映画さながら」と今でも語られている。
空港での保安検査をすり抜けるためにX線検査機のない関西国際空港が選ばれた。
米軍特殊部隊「グリーンベレー」は、米国政府の「秘密工作」「特殊工作」を遂行する世界最強の部隊として知られる。
戦争の進め方が、従来の「正規軍同士による戦い」から「非正規」の「特殊作戦」として遂行されるようになってから、「グリーンベレー」などの特殊部隊や民間セキュリティ会社に求められる役割は世界的に大きくなっていった。
また、現役の軍人が逮捕されると政府に対する責任追及の声が高まるため、民間警備会社(ブラックウォーター社など)への「秘密工作の外注化」が進んでいった。
「特殊部隊」の人員不足という問題は深刻なものとして、「民間人」や「刑務所に収容されている人物」のリクルートも行われている。
マイケル・テイラー氏も、グリーンベレー退役後に民間人として、人質救出作戦やおとり捜査などの「秘密工作」に従事し、米国の刑務所に服役していたことも伝えられている。
アメリカを含む「特殊部隊」の役割は、単純な軍事的なオペレーションではなく、自国にとって都合の悪い政権の転覆のための秘密工作や、自国にとって好都合な政権の維持と持続のための「秘密工作」である。政治・経済的な謀略を仕掛けたり、要人の誘拐や暗殺を行うことが任務である(注1)。
それらの「秘密工作」を遂行するために民間企業を設立したり、民間人になって「秘密工作」を進めることも多い。 当然これらの活動は、どの国の政府も「公式には認めない秘密作戦」として遂行される。
マイケル・テイラー氏の経歴も、 グリーンベレー退役後に民間警護会社を設立している。 戦場や紛争地での護衛やコンサルティング事業を営み、米国の国防総省(ペンタゴン)からの仕事も請け負っていた。
2009年には、タリバンに拘束され人質とされていたニューヨーク・タイムズ紙の記者を救出する活動に関わるなどし、民間軍事会社・警備分野におけるエキスパートとして知られるようになった。
しかし、米国の国防総省(ペンタゴン)との契約について不正行為が疑われFBIの捜査を受けている。 その際に捜査官に賄賂を渡して隠蔽を計画したことが判明し、2012年に起訴され、刑務所に収監された。
刑務所に収容されたことで「さらに有名となり」、人質救出・警備分野におけるエキスパートである彼のもとには「相談しに来る人々」が増えていったとみられている。
そして、カルロス・ゴーン氏の家族などからも、日本の刑務所に収容されているゴーン氏の救出についての相談があったのではないか。
自分自身も米国の刑務所に収容された経験があることから、「ゴーン氏に共感し、救出作戦」への参加を決めたと語られている。
今回、カルロス・ゴーンの海外逃亡を成功させ、犯人として逮捕されたマイケル・テイラー氏とその息子は、世界中で知られる存在となった。
刑務所から釈放されたあと、彼や彼の仲間たちのもとに「相談にゆく人々」がますます増えていくことが予想される。
「特殊工作」や「秘密工作」などの安全保障に関係する人々は、刑務所の中に入ったり出たりの繰り返しで、普通の人々とは全く異なる「映画的な人生」を歩む人が多い(注2)。
東京地検特捜部は、「グリーンベレー」元隊員のマイケル・テイラー氏に対する取り調べから、有益な情報を引き出せるかどうか。
取調室で行われる「捜査官」と「容疑者」の攻防がどのように進んでいくか、世界の注目が集まる。
(脚注)
(注1)「ノビチョク」などの化学物質は、呼吸停止と心拍停止を引き起こし、最終的には心不全や肺水腫といった窒息死により死亡するため「殺人事件」が発覚せずに、「自然死・病死」として処理されることが多い。また心筋梗塞や心臓発作を誘発する化学物質などもあり、「自然死や病死と扱われている中には、我々が暗殺だと気付かずに自然死として受け止めている出来事」が相当数混じっているだろうと米国安全保障の高官は語る。
(注2) パキスタンにおいて2名に対する殺人容疑で逮捕された「レイモンド・デービス(Raymond Allen Davis)」は、元グリーンベレー隊員、元ブラックウォーター社社員、のちにコンサルタントを営んでいた。2名に対する殺人容疑で2011年1月に逮捕され、投獄されていたが、「実質的恩赦(秘密裏の司法取引)」によって釈放されている。のちに米国政府高官は、CIAの秘密工作員であることを認めた。
(参考)
・荒谷卓(元陸上自衛隊1等陸佐)『陸上自衛隊の専門家に聞く「世界の特殊部隊」事情 特集 特殊部隊と心理戦の最先端 荒谷卓 陸自研究本部室長(前特殊作戦群長)』ワールド・インテリジェンスVol9 2007年10月号
・荒谷卓(元陸上自衛隊1等陸佐)「陸自特殊部隊の初代隊長はなぜ自衛官をやめ、熊野の山に里を開いたか 荒谷卓」週刊プレイボーイ2020年10月号
・CNN「パキスタンで拘束の米国人はCIA人員 米高官認める」2011年2月22日
・朝日新聞「ゴーン氏の逃亡支援か、米国の親子逮捕 東京地検特捜部」2021年3月2日
・日本経済新聞「逃亡協力で逮捕の元米特殊部隊員「ゴーン元会長に共感」」2021年3月2日
・日本経済新聞「ゴーン元会長逃亡、支援の米親子到着 経緯解明へ」2021年3月2日